甘口辛口

朝日新聞バッシングの背景

2014/9/19(金) 午後 6:05
朝日新聞バッシングの背景

朝日新聞への集中攻撃がつづいている。一つの新聞に対する集中攻撃がこんなにも長く続く事例はかってなかったのではないか。フライデーによると、これを見て大喜びをしているのが朝日の商売敵である産経、読売グループで、朝日の社長が謝罪会見したときには、産経新聞編集局はお祭り騒ぎになって缶ビールで祝杯を挙げたという。

これ以上に喜んだのは安倍首相をはじめとする官邸の面々で、配下の政治家たちから次々にお祝いの電話がかかってきて、一同大はしゃぎだったらしい。そんな中で、思わず失笑したのが「週刊新潮」の広告だった。特集記事のタイトルはこうなっているのだ。

  「朝日新聞」謝罪が甘い!!!」
  「朝日新聞」うわべだけの謝罪を看破する!」
  「謝罪会見」に垣間見える謝らない体質」

感嘆符を大安売りしたり、札付きの極右である桜井よしこや百田尚樹を引っ張り出したりして、盛んに謝罪が不徹底だと非難しているのだが、非難しているのが「週刊新潮」だから笑ってしまうのである。

数ある週刊誌の中で「週刊新潮」ほど記事の内容が不正確で、でっち上げが多いという理由で訴訟を起こされているものは少ないのではなかろうか。朝日新聞にも「舞文曲筆」と称される記事が多いかも知れないが「週刊新潮」のそれには到底及ばないのである。

だが寡聞のためか、愚老は「週刊新潮」が自らの紙面の誤りについて謝罪している文章を見たことがないのだ。

愚老が同誌の広告を見て笑った理由は、もう一つある。「週刊新潮」も以前に、ニセ文書を本物と間違って誌面に載せ、「池上彰の新聞ななめ読み」で批判されたことがあるのである。「週刊新潮」が掲載した朝日新聞阪神支局襲撃犯の手記に関するもので、題名は「『週刊新潮』の誤報」となっていた。

「週刊新潮」編集部に自分が犯人だと名乗り出た男はニセ者で、編集長は彼にまんまと騙されてしまったのだ。そのため編集長は誌上で真相を説明しなければならなくなり、

   =「『週刊新潮』は、こうして『ニセ実行犯』に騙された」=

と題する長文の記事を掲載することになったのだ。

まるで、これでは、結婚詐欺師に騙された世間知らずの娘による投稿手記のタイトルみたいではないか。「週刊新潮」には、生き馬の目を抜くような凄腕のライターがたくさんいて、あることないことを書き立てるので、数ある週刊誌の中で訴えられる件数が最も多いといわれている。その野武士集団のトップが、男に捨てられた小娘みたいな文章を書いているのだ。

「池上彰の新聞ななめ読み」の筆者は、「騙された」というタイトルについて、「これだと週刊新潮が被害者みたいではないか」と疑問を呈している。彼は、「週刊新潮」は被害者なのではない、間違った情報を流したことで読者を混乱させた加害者なのだという至極まっとうな指摘をした上で、タイトルとしては副題の「本誌はいかなる『間違い』を犯したのか」の方が相応しいと教示している(この件を当ブログで以前に取り上げているので興味のある方はhttp://www.ne.jp/asahi/kaze/kaze/tuika29.htmlをご覧下さい)

来る日も、来る日も「朝日」攻撃の報道ばかりに接していると、「これが日本人だな」と苦い思いがこみ上げてきたが、そのうちに、問題を公平に見ているたった一つの文章を発見した。月刊「創」編集長篠田博之の『政府家の批判を敵視する風潮』という新聞に掲載されていたエッセーであった。

この文章で篠田氏は、今回の騒動が朝日一紙にとどまらず、ひろく言論界全体に悪影響を及ぼすのではないかと憂いている。何しろ、朝日たたきの誌面には「国賊」「売国奴」というような敵意むき出しの見出しが躍り、問題に関係した朝日新聞記者家族の名前やその写真までネットに公開されているのだ。

こういう悪しきナショナリズムや反知性主義が横行する中で政府を批判したり、政府の方向性に反する内容を主張したりすれば、官・民双方からのバッシングを受ける危険性が増えてきたのである。

この点について、これまで朝日新聞を敵視してきたと思われるフライデーが憂いをおなじくしているのは興味深い。同誌は、こう書いている。

<これまで朝日新聞は、政権に対して他メディアと比べてもっとも厳しい論陣を張ってきた。だからこそ、安倍官邸は朝日を一気に叩きたかった。そして目論見は見事に成功したのだ・・・・・政治ジャーナリストの鈴木哲夫氏は、「朝日問題以降、メディア全体が政権に寄り添う姿勢が目立つように思います。『政権に対してモノを言いにくい雰囲気』は、歓迎すべきことではないでしょう」と指摘している。

朝日バッシングでいちばん得をするのは誰なのか。安倍首相の高笑いが聞こえてくるようだ>

凡百の朝日たたきのなかで、バッシングの背景に触れている記事がわずかに二つだけだったとは情けない話だ。新聞勧誘員の語るところによれば、購読新聞を変更させようとしても一番抵抗するのは朝日新聞を購読している家庭だという。これだけ朝日バッシングが盛んだと、さしもの朝日読者のなかからも購読を止める者が出てくるかもしれない。

しかし愚老は、それもまたいいかもしれないと考えている。リベラリストの立場からすると、最もリベラルだとされる朝日新聞も保守的な読者に迎合してその鋭鋒を鈍らせることが間々ある。それもこれも、朝日の読者があまり多すぎるためかもしれないのだ。世界各国のクオリティー・ペーパーで、朝日新聞ほど多くの読者を抱えている新聞は少ないのではないだろうか。クオリティー・ペーパーは、どうしても宿命的に読者層が少なくなるのだ。

誕生以来「朝日新聞」の匂いに触れてきた愚老は、発行部数が少なくても、良質の記事を満載し、国の内外から敬意をもって見られるような新聞になってほしいと朝日新聞に望んでいる。