甘口辛口

嫌いあう三つの国

2006/10/21(土) 午前 11:29
北朝鮮の核実験以来、テレビに頻繁に顔を出す北朝鮮問題の「専門家」の一人に、コリアン・レポート編集長の辺真一がいる。あるテレビ番組を見ていたら、いつも歯切れのいい解説をする辺真一が、珍しくちょっとためらった末に、こんなことを言っていた。つい、口を滑らせてしまったのだ。

「朝鮮人は、中国人が嫌いなんですよ」

北朝鮮と中国との関係が悪化したことに関連した発言だったが、彼の表情から察するに、彼は思わず本音を口にしてしまったのである。

私は昔、欧米の作家が、「日本人、中国人、朝鮮人は互いに嫌いあっている」と書いているのを読んだことがある。作家が事実だけを述べ、その理由について説明していなかったから、かえってこの言葉がこちらの記憶に残ったのだった。

目を転じてヨーロッパを眺めれば、日本・中国・朝鮮と対比できる国際関係は、イギリス・フランス・ドイツの間に成立していると思われる。イギリスは、日本が中・朝と海を隔てて対峙するように、海をへだてて独・仏と対峙する位置関係にあるのだ。

国境を接する独・仏は犬猿の関係にあって対立し続けていたが、イギリスが独・仏と争うことはなかった。イギリスは、フランスにナポレオンが現れたときにはフランスと戦い、ドイツにヒトラーが現れたときにはドイツと戦ったけれども、それはナポレオン、ヒトラーが自国を脅かす姿勢を見せたからだった。

中国と朝鮮の関係も独・仏のそれに似ている。中・朝両国が歴史的に見て、必ずしもしっくりしていなかったことは、あまり知られていない。中国という超大国に隣接した朝鮮は、その属国にされないまでも、常に相手から屈従を強いられて来ている。これに反して朝鮮と日本の関係は、豊臣秀吉の朝鮮出兵の時期をのぞいて、おおむね友好的だった。江戸時代には、この両国は互いに礼を尽くして使節を交換し、親戚同士のような関係を続けていたのである。

日本と中国の関係も、悪くなかったから、江戸時代までの日本は中国・朝鮮の両国に対して、つかず離れず、どちらに肩入れをすることもなく平等な態度で接して来たのだった。それが狂ってきたのは、日本が両国に先んじて近代化し、「遅れてきた帝国主義国家」として隣国へ侵略の手をのばし始めたからだった。

日本は近代化するまでは、中国・朝鮮の驥尾につく文化的後進国だった。中国は古くから日本を世界の片隅にある蒙昧な小国と見ていたし、朝鮮は自国を日本に政治制度や学芸を教え込んだ師父の国と見ていたから、日本の侵略を受けたときに無学蒙昧な成り上がりものに国土を蹂躙されたという怒りを感じた。

中国人が朝鮮人を嫌う理由は、朝鮮が日本に併合され、中国侵略の前進基地になったからであり、朝鮮人が日本という虎の威を借りて、中国人を見下していると感じていたからだった。かくて、日本人、中国人、朝鮮人は互いに他の二者を嫌いあう三すくみの状態になったのである。

ヨーロッパでは、ドイツもフランスも過去の憎しみを捨ててEUをともに支える友好国になった。だが、東アジアでは、日・中・朝の三国はいまだに過去を清算出来ず、いずれの国も国内の遅れた階層に媚びて排外意識を煽る政治家・評論家の出現を許している。

日・中・朝の三国に求められるのは、ちっぽけな敵対感情を捨てて、ヒューマニズムという人類普遍の大道につくことだ。日・中・朝の三国が、愛国主義教育をやめて、世界人・地球人を生み出すことを教育の目的に掲げるようになったときに、はじめてEUと並ぶアジア共同体への道が開けるのである。